2007-2008
科学研究費補助金(基盤研究(B))
合流式下水道雨天時越流水由来の未規制リスク因子の受水域における挙動解析
[代表:古米 弘明]
研究の目的
雨天時における合流式下水道起因の汚濁問題に対処するには、従来型のSS、BOD、T-N、T-P、大腸菌群のような水質指標だけでなく、未規制の病原微生物(ウイルス、腸内細菌など)や有害微量化学物質(多環芳香族炭化水素や重金属など)によるリスクを評価する必要がある。
本研究では、雨天時における未規制リスク因子の流出ダイナミクスと受水域における挙動の解明を目的とし、それらの発生源や負荷量の寄与度、親水空間でのリスクレベルについて把握することを試みる。
当該グループは、これまでに下水および管路内堆積物における化学物質や病原微生物の存在量・流出特性に関する貴重なデータを得ている。これらの知見を基にして、本研究では、雨天時後の受水域(東京湾)におけるリスク因子の存在状態や経時的な変化に焦点を絞り、東京湾沿岸の3次元流動モデル計算から雨天時汚濁現象を定量的に予測し、個々のリスク因子に最適な制御や管理のための手法を探索することを目指す。
研究概要 - 2007年度
合流式下水道の雨天時越流水に含まれる汚濁物質が、受水域においてどのような挙動を示すのかを評価するため、本年度は東京湾における実態調査、雨水ポンプ場における自動採水器によるモニタリングを行った
東京湾の調査は、降雨直後の2007年11月11日にサンプリングを開始し、その後、12日、14日、21日、28日にもサンプリングを行い、雨天後の汚濁物質の動態を評価した。サンプリング地点としては、隅田川河口部から東京湾に至る10地点を選択し、干潮、満潮時のサンプリングに加え、深さ方向(表層、中層、低層)の分布についても評価した。また、お台場海浜公園においても調査を行い、親水リスクに越流水がどの程度寄与するのかを調査した。分析対象としては、有機物、栄養塩、SSなどの一般的な水質指標に加え、重金属、病原性微生物(大腸菌、大腸菌群、アデノウイルス、ノロウイルス)、医薬品、微生物群集とした。調査の結果、一般水質指標からは雨天時越流水の影響を伺うことは難しかったが、病原微生物指標からは雨天時越流が発生していることを強く示唆する結果が得られた。病原微生物は表層水に多く含まれ、中層、低層水の濃度は低かった。
越流水中の汚濁物質の流出パターンを評価するために、東京湾に越流水を排出する雨水ポンプ場に自動採水器を設置し、ポンプの稼動と共に、5分間隔で越流水を採水する体制を整えた。2007年度では、計3回の試料を採取できたが、経時的な動態を評価できるだけの十分なデータは得られなかった。来年度にかけて調査を続行する予定である。
研究概要 - 2008年度
合流式下水道雨天時越流水に含まれる汚濁物質の東京湾への主要な流入経路である隅田川を対象として、晴天時、雨天時の汚濁物質の濃度変化の調査、東京湾における汚濁物質動態モデルの高度化を行った。
隅田川永代橋において、雨天時(2008年10月14日 – 15日:総降雨量10mm)、晴天時(2008年10月22日 – 23日:先行晴天日数2日)の2 回採水を行った。採水は30分から1時間に1回の頻度で24時間連続して行い、一般水質項目に加えて、健康関連微生物(大腸菌、大腸菌群、ウイルス)や重金属類の濃度変化を測定した。同時に、隅田川白鬚橋に設置したドップラー流速計で流速・流量を算定した。その結果、濁度やアンモニア性窒素は雨天時の方が晴天時よりも濃度が有意に高かったのに対して、全リン、全窒素、硝酸性窒素などは逆に晴天時の濃度の方が有意に高かった。健康関連微生物の調査の結果、雨天時には大腸菌濃度が上昇する傾向が見られたが、アデノウイルス濃度はほぼ一定値を保ち、健康関連微生物ごとに動態が異なることが示された。重金属類については、晴天時と雨天時で濃度レベルは、ほとんど変化なかったが(CSOの測定値と比較すると、1オーダー程度低いレベル)、CuとZnでは降雨初期時の濃度が高く、路面排水等からの影響が示唆された。
また、東京湾における汚濁物質の動態モデルについては、隅田川およびポンプ所からの汚濁負荷量(大腸菌群)の与え方を改善し、モデルの高度化をはかった。その結果、お台場周辺海域においては、ポンプ所からの負荷の影響が大きいこと、潮汐によって大腸菌群がダイナミックに移動することが示された。