1996-2001
COE形成プログラム
複合微生物系の機能を利用した高度水処理技術の体系化とその評価
[研究代表:松尾 友矩(1996-2000)、大垣 眞一郎(2001)]
水は地球上のあらゆる生命にとって必要不可欠の物質です。また、人類にとっては単に生命を支えるというだけでなく、農業・工業といった産業活動からレジャーやレクリエーションのような個人の活動にいたるまで、さまざまな場面においてなくてはならないまさに必須の物質です。本プロジェクトでは、安全な水を確保し、また、快適な水環境を実現するために必要不可欠である水処理の技術について、特に、複合微生物系という観点から研究を展開しました。
複合微生物系とは、さまざまな微生物が共存する微生物生態系のことです。例えば、下水処理場では下水は微生物により浄化されていますが、そこでは、食品や薬剤の生産に用いられるバイオテクノロジーとは異なり、特定の種類の微生物が働くのではなくさまざまな微生物が共存して働いています。下水そのものがたくさんの微生物を含んでいて、それらをいちいち除去するわけにはいかないので、必然的にさまざまな微生物が下水処理場に住み着いてしまうのです。また、かえってその方が時々刻々と変わる下水の成分に対してうまく対処できるという側面もあると思われます。いずれにせよ、下水処理場はさまざまな微生物の働き、すなわち複合微生物系の働きによって成り立っています。
複合微生物系に関する研究は、これまで非常に遅れていました。伝統的な微生物学の方法では、一種類一種類の微生物を他の微生物から分離し(「単離」といいます)、大量に増やし、そして、どのような物質をどのような条件で利用するかというようなことを詳しく調べていくという方法でした。しかし、多くの研究から、どうやら自然界や下水処理場の微生物の1%も単離することはできないようだということがわかってきました。一方近年、分子生物学といわれる分野が急速に発展し、その中から複合微生物系を解析するために非常に適した技術が生まれてきました。蛍光遺伝子プローブ法、PCR法、クローニング法、PCR-DGGE法といった技術が生まれ、微生物を単離することなく、複合微生物系を解析することが可能となってきました。
このプロジェクトは、こうした分子生物学の技術を利用し、水処理プロセスの基礎原理の解明やプロセスの性能評価、あるいは、新しい水処理プロセスの開発をおこなうことを目的として遂行されました。現在、水処理プロセスには上水道についてはより安全な飲料水の供給、下水道については微量汚染物質の除去、処理にかかるエネルギーや維持管理費の低減、下水からの有価物の回収技術の開発といった課題がに対応する必要があります。これらの課題のそれぞれについて、分子生物学的手法を導入して取り組みました。また、COEプロジェクトは”中核的拠点を形成するプロジェクト”という意味です。そこで、学術的に優れた研究成果をあげるだけでなく、先端的な研究をおこなうために必要な施設や分析機器を備え、国内外の研究者が集まり情報交換を行う場として機能し、そして、中核的拠点を担う組織を形成することを目指して活動してきました。
以上が本プロジェクトの概要です。さらに一言で要約するならば、我々は学問として水処理プロセスを遺伝子レベルから捉え直すことを試み、そのために必要な研究を担う場を形作ったいうことができます。本プロジェクトの学術的成果および中核的拠点としての活動の詳細についてはそれぞれのページをご覧下さい。本プロジェクトの結果として生まれた研究成果をさらにのばすために、また、これまでに形成された中核的拠点をさらに発展させるために、私たちの努力は今も続いています。